あやめ野スミアル
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西暦2005年07月11日、あやめ野スミアルは誕生3周年を迎えた。
2周年記念日を祝うことを忘れ、3周年記念日は盛大な祝祭を催そうと考えていたスミアルの住人達だったが、
その日は何事もなく過ぎ去っていた。
さかな釣りや茸狩りに勤しむ毎日が時の経過を忘れさせたためではない。
西暦2002年07月11日にあやめ野スミアルが誕生して以来、この地に留まる事を宿命付ける求心力となっていた『ロード・オブ・ザ・リング』の大流が、
西暦2005年02月02日、『ロード・オブ・ザ・リング第3部 王の帰還・SEE』が発売された時をもって終わりを告げたのである。
その結果、あやめ野スミアルは根源への不可逆的な潮流から解放され、あらゆる方向へ趣向することが可能となったのだ。
この地に対する繋縛が解かれたことで、スミアルの住人は己が宿命を忘れ去り、あやめ野スミアルの誕生と
この地への求心的指向をも忘れた日常を送っていたのだった。
『おぉスメアゴル、根源の主よ。あやめ野スミアルを覆う空気の変化にお気づきですか?』
『スス・ススス・・・知ってるのよ。暑いのよ、夏だからよ。雨も降らないよ。黄色い顔しどいのよ。』
『いえ、気候の変化ではございません。スミアルを覆う根源的なものの変化でございます。』
『ススス・・・何よそれ。わしら何も変わってないのよ。シミアル昔のままよ。』
『ですが我々は今、あやめ野スミアルの誕生を意識することを忘れ、この地への根源的意識を感じぬままに
時を過ごしているように思えます。これはやはり我々にとって始まりとなった物語の終焉が影響しているのでしょうか。』
『ススス・・・違うのよ、それ違うのよ。』
『わしら何も変わってないのよ。わしら根源探すのわしらそこ好きだからよ。ここに住むのここ好きだからよ。
シミアルの誕生日根源と違うよ。根源もっと深いところね。誕生日忘れてもいいのよ。』
『であごる昔わしらの誕生日の贈り物忘れたね。でもわしら怒ってないのよ。いとしいしとわしらとであごる戻したからよ。
しどい鉄しるやつ倒したからよ。』
『誕生日忘れたの、きっと何かしてきなこと起きるからよ。そのままにしるのよ。そうしればしてきなこと起きるのよ。』
『・・・おぉスメアゴル、我が主よ。さかなの汁気が御身に降りかからんことを・・・』
『私はスミアルの根源ばかりを気にかけ、より深き始まりのことを失念しておりました。我らの始まりはあやめ野スミアルにあらず、
それより遥か以前より連綿と続くものであったのに。』
『スミアルの誕生は根源より続く物語の1ページに過ぎないものなれば、時の流れの中でその箇所を見落としたとしても
物語そのものが終わるわけではないのですね。』
『・・・スス、ススス、スス』
『主の御言葉は私の心の霧を晴らす風でございます。根源の道も一つではないのかもしれません。
今の私にはそう思えて参りました。』
『根源どこかね?わしら子供の頃から探してるのよ。でも見つからないのよ。ちぃっとも無いのよ。でも道いっぱいあるのよ。
わしらここで生まれたからここ住むね。でも根源ここになければ別の場所探すのよ。わしら昔そうしたのよ。』
『はい。そしてかの洞窟の探索は様々な伝説を生み出しました。』
『そうよ、根源の道に迷ったら違うとこ探すね。そうしれば色々なこと起きるのよ。』
『今なら、違う場所へも行ける気が致します。スミアルの外へも。』
『しるのよ、しるのよ』
こうしてあやめ野スミアルは新たな歴史を刻むことになるのだった。