あやめ野スミアル


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西暦2004年7月11日はあやめ野スミアル建立二周年記念日であった。

しかし、1年前に盛大に祝おうと誓って閉幕した記念祭から一年経ったその日は、

であごるの絵画作業に忙殺されつつ何事もなく通り過ぎてしまっていた。

大変な失態に気付くも後の祭り、この日を楽しみにしていたスミアルの住人達の非難を浴びつつ、

であごるは主スメアゴルのもとへ贖罪のため赴くことに。


『主よ、我が過ちを告白致します。私は主の復活されたスミアルの誕生日を忘却の彼方へと追いやり、

欲望の赴くままに絵描きに奔走してしまいました。スミアル建立二周年記念日は過ぎてしまったのです。』


その言葉は主を凍りつかせたようだった。

主は定まらぬ目で遠くを見つめ、静かな、しかし息の詰まるような重たい空気の中、

ススス、スス、ススス・・・と声を漏らすばかり。

であごるの胸は締め付けられ、今更ながらに取り返しのつかない過ちを犯したことに打ちのめされた。


(おぉ、スメアゴル。我が主スメアゴル。どのような罰もお受け致します。主の御心がそれで癒されるのなら。)

(毎日汁気たっぷりのさかなが干上がって行く様を眺めましょう。茸が胞子をばらまき萎んで行く様を眺めましょう。)

(根源の道を閉ざし、空を仰いでエルフに祈りを捧げましょう。)


であごるは深い沈黙の中、心の中で自分を呪う言葉を繰り返した。

そうすることでしか、今の苦しみを癒すことは出来ないと思ったからだ。

 

『わしら祝ったのよ』

 

おもむろに発せられたその言葉は、沈黙の闇に目も眩むような閃光を走らせた。

遠謀深慮にして慧眼の主スメアゴルは、であごるの過ちを受容し御自ら祝祭を催されたというのか。

驚愕するであごるに向かって、主は更に言葉を続けた。

 

『ついこの前よ。でっかいケーキ持ってお山に入ったのよ。白いしととわしらそこで祝ったのよ。

であごるもいたよ。忘れたね?』


それはフェアメル・アニバーサリーである。


主はフェアメル・アニバーサリーを御自らへのお祝いだと思われていたらしい。

 

『・・・そうでした。絵を描いていると他のことを忘れてしまうもので。』

であごるは主の御心を慮って話を合わせることにした。決して逃避ではない。


こうして危機を脱したであごるが主の部屋を退室しようとした時、主が独り言を呟いているのが聞こえた。

『もっとお祭りしたいのよ、そうしればケーキ食べられるからよ。白いしといらないね。わしらのケーキ沢山食べる奴よ。

変な魔法も使う奴よ。角がピカピカしかるのよ・・・』

 

お祝い。何かのお祝いがあれば主はケーキを食べられる。であごるはお山を下りながら黙考し、

主のために何かスミアルにまつわるお祝い事を捜し求めた。


そしてそれは、西暦2004年8月24日に訪れた。


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あやめ野スミアル全更改日誌


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